・精子提供の歴史と現在
日本では、1948年に初めて非配偶者間人工授精(AID)が実施されました。それ以降は国内でできる人工授精では2万人近くの子どもが産まれているといわれていますが、個人間での提供や海外の機関を利用して出生した場合のデータなどが含まれておらず、正式な人数は分かっていません。
生まれた子供自身が自分の出生について理解しているケースも非常に少ないです。また、様々な事情から提供者の個人情報が分からず、母親であっても遺伝子父親と連絡が取れないケースも多いのが現状です。生まれた子供のその後を追跡しているケースはほとんどありません。
子ども自身が知るには、育ての親から直接話を聞くか、両親との遺伝子検査などをして判明することなどがあります。親としても子どもが成人した時に話をするのかは非常にデリケートな話題になりますし、日本ではAIDを通して生まれた子の親子関係に関する法律や自分のルーツをたどる方法、その権利についての法整備がほとんど進んでいません。
そしてなにより、日本独自の考え方の点からどうしても血のつながらない親子に関する目は当事者にとって厳しく感じることがあるのも事実です。
・子どもの出生についてどのように伝えるか
実際に自分がAIDで生まれたことを偶然知ってしまったという方は、親と違う見た目に悩んだり違和感を持ったり、親からそのことを話されたときの衝撃、話されなかったときに自分で知ってしまったときの憤りなど、育ってきた年月の分だけ重たく圧し掛かってくる言葉にできない感情があったと言います。
これはAID以外にも、養子縁組などで親子になったケースにもあてはまります。結婚などで戸籍を取り寄せて判明したということも少なくありません。
こうした場合、提供者側のプライバシーを守るために情報を開示することができない、もしくは情報を一定期間ののちに削除していることがあるため、自分自身のルーツを探ることさえ困難になっています。
近年ではようやく子どもが自分の出生について知る権利を守ろうとする動きがあるとはいえ、その法律が整備されて実現するまでにはまだまだ時間がかかります。
今まさに自分のルーツを知りたいという人にはたどる方法がありません。提供する側ももしかしたら、いずれ自分の遺伝子を持った子供がコンタクトを取ろうとすることも起こりうることはどうしてもネガティブな印象になってしまいます。
子どもを授かる選択肢として精子提供を選ぶことは、子どもの将来のこうした感情のことも考慮する必要があります。